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「賢者の落とし物」(18歳未満の方は保護者同伴の上閲覧下さい) [時には創作]

あるところに、貧しいけれど仲の良い、好奇心の強い夫婦がいました。

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解放への抗い [時には創作]

解放への抗い


 ぎりぎりの列車に間に合った。つまり、この便を逃すと遅刻する。
 直腸の違和感には家を出るときに気付いていた。予め朝便(朝、通勤の前にする排便行為)は済ませてあった。実便(平面上で三次元形態を保つ大便。対して液状に広がる便は虚便もしくは、その性質から水瀉便と呼ばれる)であった。実便の後に来るは虚便。そう相場は決まっている。理屈ではない。
 それなりの分量を排泄した後であり、便圧そのものは低い。実便を含めた場合を街宣カーの騒音とするなら、今回は恋人たちの囁き程度である。だから事態を楽観視していた。
 しかし虚便は油断ができない。こちらには理屈がある。1929年に発表された『相対性便理論』(註1)によると縦軸をリスク(R)、横軸を時間(T)とした場合、実便はいくつかのピークを伴って高低を繰り返しながら上昇していくのに対し、虚便はより緩やかな上昇カーブを描く。実便に比べて便意のムラが少ないため、少しの気の緩みが致命傷になりかねないのである。

 どうしたものか。定刻通り発車した列車の揺れをシート越しに感じつつ、当面の対策を講じることにする。
 とりあえずベルトの穴をひとつ緩めた。これは基本だ。
 寝るか。瞑目。…眠れない。これは体が「寝るな」と警告しているのだ。一瞬でも隙を見せれば、殺られる。
 ならばこちらも正攻法で臨む。取るに足らない事をなるたけたくさん、隙間なく想起して排泄欲を掻き消す、いわば消耗戦である。
 とはいえ、克服しきれない臆病な精神は過去の悪夢を呼び覚ます。幼き頃の…また言い訳が効かない年齢となってからの数々の敗北の記憶。疾走、絶叫、驚愕、恥辱…。己の若さ故の過ち…認めたくないものである。
 不意に便意!はっ、いかんいかん、弱気は禁物である。奴等は肉体の内から常に心中を窺っている。
 ここはひとつ現実的な対処方を検討しよう。仮に耐え兼ねたとして、どの駅で降りるのが望ましいか。
 まずは候補A駅。ここで私鉄に乗り換えると、もう一度環状線に乗り換えて勤務地の最寄り駅に行くことになるので遅刻は確実だ。
 そこから2駅置いてB、C、Dと乗り換え駅が続く。B駅で乗り換えるためには一度地上に出て100メートルほど移動せねばならず、くわえてその駅には各駅停車しか止まらないので接続次第では延々と待ち続けなければならない。論外である。
 C駅ではJRに、D駅では地下鉄に乗り換えてふた駅で最寄り駅にたどり着く。このふたつが有力である。
 とはいえ、そもそも今乗っている地下鉄はたいへん深い所を通っており、改札と同じ階層にあるトイレに行くためには長いエスカレーターを上らなければいけない。できればリタイアは避けたいというのが本音だ。

 既に列車はA駅を過ぎ、便意は強さを増してきた。気を逸らすため、隣のおばあさんが読んでいる本を覗いてみた。
「…しかし道元は師の栄西とは異なり、より大陸的な禅を広めようとしていた…」
 ほほう、禅ですな。こちらは便ですよ。
 ここにきて、指をせわしなく組み替えている自分に気付いた。焦りが顕在化し始めている。この種の運動はさらなる焦りを誘う。
 こんな時こそ落ち着いて心を鎮めねば。再び瞑目。しかし閉じた目の中の世界は、下半身方向からの苛烈な負荷に晒されたために、先ほどとは様変わりしていた。踊る原色と波打つビートが「どうする?どうする?」と問い掛ける。どうしようどうしよう。
 ようし、ここはひとつ『プロジェクトX』みたいに元気の出る友情で努力かつ勝利なサクセス☆ストーリーを捏造するんだ!
 ぐっと気合を入れて妄想スクリーンを起動させると、すぐさま原色の舞踏は止んで漫画の扉絵が現れた。
 どいつもこいつもアホみたいな笑顔を浮かべた群衆の真ん中、岩石のような顔をしたおっさんが下唇を押し上げて踏ん張っている、いや笑っているのか。しかし眉なしのスキンヘッドであり、どう見ても少年漫画の悪役だ。岩石顔の下には小汚い筆書体で「がんばる漫画 石井勝男物語」と書いてあった。どうやら「勝男」と書いて「まさお」と読むらしい…なんてくだらないこだわりはどうでもいい!だいたい石井勝男って誰だ!
 勢いあまって妄想スイッチを押してしまったらしい事はわかったが、もう少しマシな妄想は無いものか自分。「がんばる漫画」って、いくらなんでもこれはあんまりだろう。

 切なさに耐えきれなくなったので目を開いた。列車はB駅を出たところだった。おのれの無力さを突き付けられて精神的ダメージを被ったものの、結果的に時間は稼げた。長い人生だ。犠牲を払わなければ切り抜けられない状況は、きっとこの先も何度か訪れよう。焦燥、妄想、失望、教訓。端から見ればなんてことない寝たふりの間にこれほどのドラマが潜んでいようとは、誰も知るまい。ふふっ。
 だが、そうこうしている間にも便意は着実にパワーアップしている。苦し紛れにおばあさんの本を覗くと承久の乱が起きていた。この戦で勝利した鎌倉幕府は後鳥羽上皇らを配流、武家政権の優位を確立する。どうする、道元。
 って道元さんはこの際どうでもいい!いま重要なのは禅じゃなくて便、便!

 列車はD駅に停車すべくブレーキをかけはじめた。どうする、自分。もはや直腸の違和感どころか肛門の危機だ。わかってるのか、自分!距離と時間と耐性(肛門)を秤にかけて、唸れ脳内コンピュータ!
 かたかたかたかたかたかたかた。(←脳内コンピュータ駆動音)
 ああもう、D駅では下車しないことに決めた!普段利用している駅まで1駅挟むが、乗り切れると踏んだ。これはつまり「いける!」という見通しがついたとも言える。すると駅トイレに駆け込むか、職場への道程の途中にあるオフィスビルの雪隠を失敬するか、ひょっとしてひょっとすると、このまま職場までたどり着けちゃったり…。

 気が付くと、目の前に小娘が立っていた。D駅から乗り込んだらしい彼女はなんとクリスマスセールも始まろうとしているこの時期にヘソ出しルックであった!
 衝撃!いや、正確に言うとTシャツとアーミーパンツの間からヘソのさらに下を帯状に晒していた。そんなトコ…いいのか?ちょっと見惚れてしまった。うわー、お腹冷えちゃうじゃん。見てるだけで寒くなっちゃった。さむっ…?
 便意便意便意便意便意便意便意!
 んはぁっ!罠?
 女には気をつけろって、死んだじいちゃんからあれほど言われていたのにい!
 うわー尻子玉抜ける~~!(註2)
 あわてて目を閉じて自分だけの世界へ引き篭る。しかし既に眼中世界は原色世界のラブ・パレード的様相を呈していた。赤・青・黄。緑・紫・橙色。原色同士が互いに交わり、どろりと溶け合い、また新たな原色を光沢も露わに生み落とす。一連の流れは律動を伴って渦を巻き、天高く伸び上がって螺旋を描く。もはや規律も調和も失って本能のままに荒れ狂うビート。それは果てしなく乱打する鼓動。祝福!祝福!
「解き放て!解き放て!」
 そうだ、解き放って…たまるかぁをおおおお。
 暗転。
 ああ、なぜ…何故ひとはうんこを我慢するの?
 きっと、エデンの園で邪悪な蛇に唆されてイヴがりんごを食べちゃった時から、この苦しみは始まったのね…。「りんご」と「うんこ」って語感が似てない?日本語だけど。
 だってそうでしょう?仮にあなたがここでうんこをもらしたとしましょう。注がれる視線。列車が駅に着いたとたん、あなたは大泣きしながらホームに転がり出して、ズボンの裾から虚便を垂れ流しながら階段を昇るの。注がれる視線。改札を飛び越えるように通り抜けて、地上へ踊りだすの。注がれる視線。お日様の光を浴びてちょっと冷静になったあなたはなるたけ場末のコンビニで下着を買って(注がれる視線)…それから…そう、そのうちにあなたの感覚は麻痺していく。注がれる視線を徐々に柔らかく感じていく。ひと気の無い児童公園の公衆便所で身を清めているうちに口元に笑みが浮かび始め、ゴミ箱にズボンを叩き込む頃にはもう鼻歌交じり。上半身はハーフコートマフラー付き。でも下半身は糊の利いたトランクスのみというファンキーすぎるいでたちで、高笑いしながら○イあたりに突入して、素足をぴたぴたさせながら少しでもおしゃれなズボンを物色するの。。。
 せいぜいほかの人は「臭いなあ」とか「朝から嫌なもん見ちまった」とか「掃除する身にもなってくれよ」とか思う程度でしょうけど、あなたの理性のタガは気前良く弾け飛んで、あなたはあなたじゃなくなるの。あなたはあなたじゃなくなるの。。。

 はあっ!深層心理に潜む全知全能にして両性具有の別人格がとてつもなく恐ろしいコトを自分に語りかけていたような…。
 列車は目的地のひとつ手前の駅に止まっていた。扉が閉じるまでがいつもより長く感じられ、反面、いつもどおりスムーズな加速を心強く感じた。
 それらの映像は不規則な緩急を伴ったスローモーションのように流れていく。…おかしい。視界が白い。
 相変わらず一進一退の攻防は続いている。足をもじもじさせたり、座りなおしたり、知るうる限りの技術を用いて逃げ切りを図る。股間の最終関門がノックされている感触は、ある。

 どんどんどんどん!
「ぅおらっ!いるのはわかってんだよ!」
 今にも破らんばかりの勢いでドアが叩かれる。取立てだ。もう何度目だろう?見込みを誤って注ぎ込んだ挙句、失墜の果てに辿り着いたボロアパートの角部屋で震えながら、考える。考える。ああどうする、いまにも、今にも…これじゃまるで…。

 不意にすこん、と音がしてスポットライトに照らされる。地上10メートル。目もくらむような狭い足場から渡されているのは綱ではなく、刃。爪先立ちで踊って見せろ。不平に怒号にブーイング。観客の苛立ちは今にも弾けてしまいそう。
「踊れ踊れくるくる回れ!股から割かれて死んで見せろ!」
 客席は揺れる。血を!血を!血を!
 衆人環視に溢れる光。逃げ場は無いぜ、さあどうする。
 いけるか。どうだ。解るものか。人は一瞬後の未来さえ、見通すことすらままならない。
 なればこそ、これは自分だけの勝負なのか。かけるのは己自身の誇り、人間の尊厳だ。男一匹三十代、ここは腹を括ってやるぜ!あ。でもいま本当に括ったら中身が出ちゃうかも。
 目を開いたまま正気に返る。
 列車は到着しようとしていた。
 もう迷いは無い。私は立ち上がった。



註1→1929前半に発表された『相対性便理論』は従来の認識を一新する画期的理論であり、抗便医学史上最大の発見と一時はもてはやされたが、同年9月に大恐慌が起こって右往左往する人々から忘れ去られ、続く大戦では「ウンコどころではない」という理由で抗便医学という分野そのものが消滅した。

註2→水中にすむ妖怪、河童が人間の肛門から引っ張り出すといわれる何か。一説では「肝」であるという。

プロレス裏面史4 ―ふたりのアントニオ(※フィクションです) [時には創作]

アントニオ」を名乗ったのが猪木が先か小暮が先か、実はよくわかっていない。
猪木がぐんぐん人気と知名度を上げていくのを見たプロモーターが安易に便乗したとの説が有力だが、詳細は不明である。
ただひとつ言えるのは、ある時期、同じ競技のリングに二人のアントニオが立っていたという事実だけである。

もっとも、ふたりは直接肉体を交えたわけではない。猪木はスターであり中央プロレス界の牽引者であり、対して小暮は地方プロレス界の便利屋でしかなかった。いわばサラブレッドと道産子のようなもので、外見やプレースタイルも対照的だった。
言うまでもなく、角ばった大雑把な(特に顎)顔付きの大男である猪木は、動きもまた大振りで創意工夫に溢れていた。リングの内外でファンの度肝を抜き続けるスタイルで一時代を築き、我が国におけるプロレスの概念をも変えてしまった。
それに対し小暮は170に満たない、この業界では小男であった。卵形の頭の真ん中に小振りなパーツが寄り集まっており、事もあろうにやや寄り目だった。ついでに禿だった。あくまでもオーソドックスなスタイルにこだわり、「マイコン・キッド」という称号の由来である、素早い動きから正確な技を決めていく様は見応えはあるがいかんせん地味であり、おまけにダメージが少ないために相手は倒れず、肩入れすると次第にイライラしてくるというファン泣かせのレスラーであった。
ただ、「動きのキレは猪木より小暮だ」というのはプロレス通の定見だったらしい。コマネズミの様にリング内を駆け回る小柄な禿男はまた、通好みではあった。しかし通好みでしかなかったとも言える。彼の固定ファンはごくわずかだった。

小暮はリングの外では禁欲的なことで知られ、特に女性を近づけなかったため童貞説まで囁かれた程である。これまたこの業界においてはまことにケレン味に欠けた地味な男である。
こんな生真面目でつまらない男が残した貴重な語り草に「仲居浣腸未遂事件」がある。巡業の際宿泊した京都ビジネス旅館「がっちん」の宴の席で、珍しく酩酊していた小暮が晩酌に飛び回っていた中年の仲居を呼び止め、ろれつの回らない舌で「オレの名前を言ってみろ!アントニオといえば…」と言ったところで彼女は不幸にも絶妙のタイミングで「猪木です」と即答してしまった。自らの撒いた種でプライドを傷つけられた小暮は次の瞬間、あまりにも意外な行動をとった。なんの前触れもなく仲居の尻に浣腸を見舞ったのである。しかも和服の上からだったので当然失敗し、周囲は呆気にとられ、あたりには名状し難い微妙な雰囲気に包まれた。
被害を受けた仲居本人が何事もなかったかのように晩酌を再会したのを契機に、小暮を無視する形で宴は再会された。小暮は縮こまって正座したまま、以降いつまでも満たされぬコップをじっと見つめていたという。
ギリギリのところで謹みはあっても、どこまでも華のない男であった。

猪木がアリと異種格闘技戦を敢行した頃、小暮はひっそりと引退している。滅多に自分の考えを周囲に漏らさぬ男ではあったが、酔い潰れたカウンターでうわごとのようにこう、呟いたという。
「俺はね、寄生樹みたいなもんですよ。寄り付く木がでかいと一見便利だが、ある程度上までいくと足掛かりをなくしちまうんですよ。自分を支えきれなくなった挙げ句、地べたに倒れて枯れちまう。ふふっ…」
廃業後の彼の行方はようとして知れない。というか誰も興味を持たなかった。
一説には、なぜか帯広市内でちゃんこバーを経営しているという。
アントニオ小暮。謎の多い男である。


『兄貴わしづかみ』 [時には創作]

「兄貴わしづかみ」という字面から悶々と湧き上がってきたイメェジをまとめてお話としてまとめてみました。
この言葉が誕生する過程は別の機会にお話します。
最初に言っておきますが、悪趣味です。読後感は保障しません。

『兄貴わしづかみ』

アクリルケースの中では兄貴達が元気にうごめいていた。

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水辺の記憶 [時には創作]

付け爪を拾った。
さっきまで読んでいた本の背でちょいちょいと引き寄せ、手に取って観察してみる。
薄桃色の楕円形は浜辺で拾った桜貝の貝殻のようで、小さなラメが格子状にちりばめられて華やかだ。

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なぜか大山倍達似 [時には創作]

過去のデジカメ画像を整理していたら、5年前のこんな写真を見つけました。

この前年ぐらいにも人面雪達磨を作ったのですが、家の前の道路に放置したら数時間後に近所の悪童によって破壊されてしまいました。
子供なんて…子供なんて!!
以上の悲劇を教訓としてこのときは一抱えサイズの雪球を玄関先まで転がして、安全な場所で製作しました。
当たり前ですが、寒かったなあ。

面白半分に「共通テーマ」を「アート」にしてみます。


背徳のわななき [時には創作]

 いつになく華麗な化粧を施された彼等は商品だ。
 自分達ではどうにもならぬ存在意義を抱えたまま、まるで遊女のように透明な囲いの中から無言で訴える。
「何を恥じらっているの?私を買って。そして私にその身を委ねて…」
 そう。僕が求めるのは真心でも慈愛でも無い。ただ甘美でリスキーな快楽だけ。
 そんな僕の本心を君達は許してくれるのかい?
 傍らでは無表情の裏に打算を秘めた連中が次々と君達を買い落としていく。でも奴等の目に叶わないものはどうすればいい?
 それでもなお指名を待ち続ける健気な様子が、僕の胸を締め付けるのだ…。
 ああ、いっそこの場で叫びたい。孤独を抱き、声の限り!
「僕はお前たちを等しく、深く愛している!僕はお前たちを分別したりしない!大体こんなシステムは間違っている!こんな慣習さえ無ければ、僕たちはもっと自由になれる…」と。
 しかし次の瞬間、僕は自らの主張の背徳性、反社会性に気付き、滑稽にもうろたえた。臆した!
 神様、僕は純愛や哀れみなど求めない。だからささやかな願いをひとつだけ、今日この時2月14日にチョコレートを買えるちっぽけな勇気をください!

 打ちひしがれた気分で、僕(おっさん予備軍)は高級チョコの詰まった特設ブースを後にした。


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