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『風立ちぬ』所感(ネタバレあります) [レビューなど]

 観た人の混乱ぶりを横目に気になってはいたものの、宮崎駿の「長編引退宣言」を受けてようやく観てきました。
 これは…額面通りに受け取れない作品だと思った次第です。
 以降は未見の人に対する紹介と言うより、既に観た人への感想です。 この作品で、途中から気付くことは「睡眠下で見る夢」(幻想)と「生きていく上での目的」(理想)が意図的に混同されているように思えるところです。
 現在の視点からはナンセンスとしか思えない感覚(兵器を作っている当事者が戦争する相手に興味を持たない等)もさることながら、人の声を発しながら飛行機が離陸する場面は悪夢のよう。
 このような世界観の提示にどのような意味があるのか、作者の意図を探りたくなってきます。
 
 ナンセンスと言えば、ヒロイン菜穂子の存在があります。幼少時は活発で、長じて絵筆を取り、自立の道を行くかと思ったら二郎の夢に己の存在を重ねるかのように消えていく。まるで美化された特攻兵のように。
 破滅の美学に至った理由は結核の為だけでしょうか。
 菜穂子と対照的に二郎に蔑ろにされ続けた結果、医師として自立の道を行く妹、加代の視点こそが最も「現代的」と思われます。二郎が無意識のうちに抱えるマチズモは一度対決しなくては克服できない。
「覚悟は出来ています。私たちには時間が少ない」
 と胸を張って言い放つ二郎より、病状への諦観を二郎への愛に託して自滅していく菜穂子を指して
「菜穂子さん、可哀想」
 と涙を流す加代の方が感情移入しやすい。
 明らかに菜穂子の療養よりも自分の夢を優先して、強く葛藤するでもない二郎の姿をエゴイズムとしないのもまた、悪夢のようです。
 作中における結核は、日本社会に今なお根を張る病理への隠喩と捉えることも出来るでしょう。

 そう。二郎はマッチョである。もちろん肉体的にではなく、精神的に。
 彼ひとりに限らず、恐らく加代以外の日本人は男も女も全員マッチョかぶれに思えます。
 なりふり構わず夢を追い、その夢を誰かに利用されることさえ目をつぶり、家庭も国家も焼き尽くしてもなお当事者意識を持てないような男性優位の性根が「マッチョ」。
http://jp.ask.com/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A7?lang=ja&o=2802&ad=doubleDownan=apnap=ask.com
「仕事に集中するために家庭を持つ。これも矛盾だ」
「仕事は男の本分だ」
「健気だ!めでたい。めでたい」
「我が社は君を守るよ。君に利用価値がある間はね」
 作中に登場する、二郎以外の登場人物がさも当然のように語る台詞は、話の進行と照らし合わせて突き詰めてみるとなかなか怖い。
 
 先ほど「恐らく加代以外の日本人は」と書きましたが、ではそれを客観的に示すヒント、冷静な外国人も用意されています。
 二郎と菜穂子の再会の場、軽井沢高級ホテルで出会う不思議なドイツ人、カストルプ。
 どう考えてもリヒャルト・ゾルゲをモデルにしたとしか思えないこの人物は、そのような人たちの国を「破裂する」と予言します。そんな彼の言葉に対して当事者意識ゼロの神妙な顔で「そうですか」と応じる二郎は、当時の日本の知識人の典型かもしれません。

 いや、二郎は戦前の日本人の典型として描かれているのではないか。
 作中で二郎が耳を貸さなかった軍人達の主張も、二郎の夢も、亡国という結果の前に大差はなく、むしろ個人の善悪を越えて同じマチズモから発生した同根の思想と突き放すことも出来るでしょう。
 敗戦から数日で占領軍のために売春施設を作ることも、失意の眠りの中で亡妻に「あなたは生きて」と言わせるのも、ロマンの有無の違いはあれ(笑)、おそらく同じマッチョな精神構造から来ているように思えます。
 冒頭に挙げたように妄想と理想の区別が付けられず、女性を蔑ろにしながら結局は女性の胸に取りすがる男性優位主義的な幼い精神構造が、戦前から現在に流れている我が国の底流であり、二郎はその精神性を純化した存在として描かれているように見えました。
「強い女性」にこだわり続けた宮崎駿が、このような男性を主人公に据えた意味は、たぶんここにあるのではないでしょうか。
 遣り手婆率いる湯女達が「神様」たるお客様をおもてなしする『千と千尋の神隠し』以上に皮肉を効かせた作品であり、作中で示される概念や台詞は全て疑った方がいいかと。

 ちなみに、自分は見終わってしばらくは感銘は受けたような気になりましたが、内容に感動することはありませんでした。
 この物語を踏まえると、最後に流れる「ひこうきぐも」もまた強烈な皮肉になっています。
 現実に都合よく目をつぶったまま具現化されていく幻想を社会単位で共有した場合の個人レベルの悲劇と、国家レベルの悲劇の過程を、幾重にもオブラートに包んで提示した作品だと思う次第です。
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