プロレス裏面史4 ―ふたりのアントニオ(※フィクションです) [時には創作]
「アントニオ」を名乗ったのが猪木が先か小暮が先か、実はよくわかっていない。
猪木がぐんぐん人気と知名度を上げていくのを見たプロモーターが安易に便乗したとの説が有力だが、詳細は不明である。
ただひとつ言えるのは、ある時期、同じ競技のリングに二人のアントニオが立っていたという事実だけである。
もっとも、ふたりは直接肉体を交えたわけではない。猪木はスターであり中央プロレス界の牽引者であり、対して小暮は地方プロレス界の便利屋でしかなかった。いわばサラブレッドと道産子のようなもので、外見やプレースタイルも対照的だった。
言うまでもなく、角ばった大雑把な(特に顎)顔付きの大男である猪木は、動きもまた大振りで創意工夫に溢れていた。リングの内外でファンの度肝を抜き続けるスタイルで一時代を築き、我が国におけるプロレスの概念をも変えてしまった。
それに対し小暮は170に満たない、この業界では小男であった。卵形の頭の真ん中に小振りなパーツが寄り集まっており、事もあろうにやや寄り目だった。ついでに禿だった。あくまでもオーソドックスなスタイルにこだわり、「マイコン・キッド」という称号の由来である、素早い動きから正確な技を決めていく様は見応えはあるがいかんせん地味であり、おまけにダメージが少ないために相手は倒れず、肩入れすると次第にイライラしてくるというファン泣かせのレスラーであった。
ただ、「動きのキレは猪木より小暮だ」というのはプロレス通の定見だったらしい。コマネズミの様にリング内を駆け回る小柄な禿男はまた、通好みではあった。しかし通好みでしかなかったとも言える。彼の固定ファンはごくわずかだった。
小暮はリングの外では禁欲的なことで知られ、特に女性を近づけなかったため童貞説まで囁かれた程である。これまたこの業界においてはまことにケレン味に欠けた地味な男である。
こんな生真面目でつまらない男が残した貴重な語り草に「仲居浣腸未遂事件」がある。巡業の際宿泊した京都のビジネス旅館「がっちん」の宴の席で、珍しく酩酊していた小暮が晩酌に飛び回っていた中年の仲居を呼び止め、ろれつの回らない舌で「オレの名前を言ってみろ!アントニオといえば…」と言ったところで彼女は不幸にも絶妙のタイミングで「猪木です」と即答してしまった。自らの撒いた種でプライドを傷つけられた小暮は次の瞬間、あまりにも意外な行動をとった。なんの前触れもなく仲居の尻に浣腸を見舞ったのである。しかも和服の上からだったので当然失敗し、周囲は呆気にとられ、あたりには名状し難い微妙な雰囲気に包まれた。
被害を受けた仲居本人が何事もなかったかのように晩酌を再会したのを契機に、小暮を無視する形で宴は再会された。小暮は縮こまって正座したまま、以降いつまでも満たされぬコップをじっと見つめていたという。
ギリギリのところで謹みはあっても、どこまでも華のない男であった。
猪木がアリと異種格闘技戦を敢行した頃、小暮はひっそりと引退している。滅多に自分の考えを周囲に漏らさぬ男ではあったが、酔い潰れたカウンターでうわごとのようにこう、呟いたという。
「俺はね、寄生樹みたいなもんですよ。寄り付く木がでかいと一見便利だが、ある程度上までいくと足掛かりをなくしちまうんですよ。自分を支えきれなくなった挙げ句、地べたに倒れて枯れちまう。ふふっ…」
廃業後の彼の行方はようとして知れない。というか誰も興味を持たなかった。
一説には、なぜか帯広市内でちゃんこバーを経営しているという。
アントニオ小暮。謎の多い男である。







アントニオ小暮、知りませんでした。
それほどプロレスファンでもなかったんですが、いろいろあるんですねー。
面白いなぁ。
都内にあった(今でもあるの?か)アントンリブに一度行ってみたかったです。
by quatre-l (2007-05-06 23:02)
>quatre-lさん
申し訳ありませんm(_ _)m
これは全て創作です!
こどもの日の早朝に2度寝する直前に閃いて、携帯電話に一気呵成に打ち込んだ物語です。
5/3のワイドショーで放送された力道山の死の真相についての特集が深層心理下で、森達也さんの新書『悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷』などと融合してこのような文章になったと思われます。
ちなみに「プロレス裏面史4」とありますが、1も2も3もありません。
わーどうしよう。
紛らわしい文章で本当にご迷惑おかけしました。
by クロヒコ (2007-05-07 02:17)
うひひ。
創作でしたかぁ!やられたなぁ。
ワタシも「夢話」をmixiに書いたことがありましたが、もちろんこんなにちゃんとした文章ではありません。
それでも、何人か信じてくれましたけど、、、。
しかし、携帯電話に打ち込んだんですか。そっちもスゴい。
by quatre-l (2007-05-12 23:18)
そうそう。夢話です。
起き抜けのイマジネーションは捨てがたいものがありますよね。
眠さをこらえてパシパシ携帯打ってました。傍から見たら間抜けな光景だろうなぁw
by クロヒコ (2007-05-14 19:02)